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山小屋日記 「消えたキャベツ」 (G)

10月20日
シゲちゃんとセマ谷に落としたキャベツを探しに行った。
落としたキャベツはどうなったのだろう?

出かける口実はなんでもよかった。とにかくいい天気なので小屋にじっとしてはいられない。
芳兵衛を陥落させた喜びで、気が晴れ晴れとしているし、気分は最高だ。
実のところ、続けて芳兵衛を抱きたいのだけれど、中々チャンスが無い。
芳兵衛は身を任せたのだから、求めて拒まれることは無いとは思うけど、
それでももう一度は抱かないと一寸心配、このまま放っておいて、元の芳兵衛に戻ってしまったら大変だ。
せめて、もう一度は抱いて、僕のものになった事を芳兵衛に確認させておいた方が安全だ。
そうは思うのだけど、なにしろ集団生活、めったには機会が無い。

ザイルかついで 穂高の山に
 明日は男の 明日は男の 度胸試し
 度胸試し 度胸試し
チョコサイコラコイ

鼻歌交じりの上機嫌で、安曇節を歌いながらザイル2本肩にかけてセマ谷へ。
シゲちゃんは本物の山男、やっぱり山は本物の山男と登るのが一番気持いい。
ジャンダルムの正面壁がそそり立っている下を慎重に下る、その先は石車に乗ってガラガラと下った。
グリシードツルムから踏み跡が下っていた。
この踏み跡は登ったもの、それとも下ったもの? どっちにしても、こんな所に踏み跡があるのが不思議だった。
数人のとか数回の踏み跡ではない。
滝谷の踏み跡とまでは行かないけど、はっきりした踏み跡だ。こんな所を誰が何の為に通るのだろう。

ザックは稜線から200メートル位のところに転がっていた。
バリバリに裂けて中身は周囲に散らばっていた。セーター、ヤッケ、カラビナ、ハンマー等を拾い集めた。

発見地点の上部で、ザックを二つ拾った。どうやら、ここでザックを落とすのは僕だけでは無かった様だ。
どれも、もう使い物にはならないけど、回収品を運ぶくらいなら役に立ちそうだ。

回収して奥穂の山頂に立ったのは、もう夕方だった。その奥穂で道に迷う。
穂高山荘でガイドしていたジゲちゃんが道に迷うとは何たる不覚、どうなっているの?
そんな訳で、穂高山荘に着いた時は、もう夕食時間は終わっていた。

僕は、主の重太郎さんが好きだ。
ウイスキーを飲みながら、重太郎さんの話を聞いた。
重太郎さんは飛騨の話をしてくれる。その話が僕は大好きだ。
重太郎さんの奥さんが棗(なつめ)を出してきて、自慢そうに「これは家の庭でとれたんですよ」と話してくれた。
重太郎さんの奥さんは目の大きな美人だ。
僕はこの前落としたキャベツを拾いに来たと話した。奥さんは「おや、まあ、それは大変で・・」と笑っていた。
夜は従業員部屋に泊めもらった。

10月21日
上の小屋に戻る。
シゲちゃんは身も軽いし、恐ろしく脚が早い。着いていくのが大変だ。上の小屋まで三時間半だった。

ところで・・、例のキャベツは一体何処までオッこっていったのだろう。
考えてみれば、丸いボールの様なものだから、若しかして鎌田川まで転がった??

10月24日 下山
二日ほど芳兵衛とのチャンスを窺ったけれど、難しかった。芳兵衛はどう思っていたのだろう。
抱くチャンスは無かったけれど、乳房だけは触れた。拒絶は無かったから、一応合格としておこう。

下の小屋に美喜子がいた。
バス停まで送ってくれた。若しかして美喜子は僕に気があるのか?
否否、そんなことはあるまい。送ってくれたからと言って、そう考えるのは甘すぎる。

美喜子は目鼻立ちのはっきりした、綺麗な顔をしている。
まん丸な乳房と赤い唇が素敵な子だけど、調さんにやられてしまったのが残念。
美喜子はてっきりクロちゃんの女だと思って遠慮していたけど、どうも違ったらしい。

調さんと仲良くなったのは美喜子のせいでは無いとは思う。
なんと言っても、アノ性欲の権化の調さんだ、調さんに狙われたまず助からないだろう。
調さんは性欲に正直だから、気に入った女ならだれでもやってしまう。
異常すぎるとは思うけれど、女の方は調さんに夢中になってしまう天才的なスケコマ師、羨ましい位の業師だ。

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Author:ひろあき
振られる度に、もう恋なんかと何度思ったことか。相手にされないのも寂しいけれど、引寄せられてからストンと捨てられるのはもっと痛い。振られる度に臆病になって、此れは恋では無かったのだと慰める。傷つかない偽りの恋しか出来なくなっても恋は恋、小さくても偽物でも恋は至福です。

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