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初めてのキス

初めてのキス

其れはもう冬も迫る晩秋の会社帰りの夜の多摩川土手だった。

川面に向かってたたずむとし子の唇を奪うつもりで弁当箱片手に背後から迫った。
許容する範囲の距離よりも近づいているのをとし子も背後に感じたらしく、多摩川を渡ってくる京浜急行の電車を指さして、
「ほらほら、あれ何?」と言った。
”ほらほら”は、異常に接近するのを止めさせるための警告音、”あれ何?”はその接尾語でしか無く、言葉自体に全く意味は無かった。

多摩川を渡る電車は先刻より何度も上下している。
別に、”ほらほら”という程、その時初めて通った訳では無い。
京浜急行はとし子が子供の頃から乗っている電車、”あれ何?”という程、珍しい電車じゃ無い。
とし子の意味無き発言を咎めたら、とし子はうろたえていた。
とっさの事ゆえの発言の矛盾を指摘され、意味無き事を言った事に少し恥いを感じていたみたいだった。

そのとし子を力ずくで振り向かせて唇を奪った。
とし子は眼鏡に抵抗したが、構わず顔を抑え付けて、無理やり唇を吸った。
とし子の抵抗は長く激しかった。
その愛だ、片手に持っていた空の弁当箱がカラカラと鳴っていた。

やがて、空の弁当箱の音が止んだ。
とし子が抵抗を止めて大人しくなったからだ。
唇を離して一旦距離を取ってから強く抱擁して再び唇を埋まった。
とし子はもう抵抗はしなかったけれど、キスは長い長いキスにした。

入社式で初めて会ってから、半年以上放置していたのに、何で突然に無理やりに唇を奪ったのか?
それには意味が有った。
とし子はどの道自分の女になる女、職場も同じで机もまん前、それはもう天が決めた運命、何時でも抱ける状態だった。
だから焦らず放置していたのだが、 夏の事から気配が怪しくなった。
化粧が濃くなり、香水を付ける様になった。
ヤバイ、男が出来た! そう思った。

それでも、僕の女にするという気持は変わらなかったけれど、どうせそうなるのなら処女のままの方がいい。
いつかは僕の物にとは思っていても、男に抱かれてしまったら、結構先送りになってしまう。
それでは本社の女と決めたのに、本社の女にはならなくなってしまう、そう思って少し焦り出した。

それで、秋の始まりの頃から一緒に帰る様にして、色々と聞きだした。
予想通り、とし子は男に恋をしていた。
相手の男の名前は花岡、中学の時の先輩か同級生らしい。
何時から付き合いがが始まったのか、どこまで進んでいるのか、その辺は定かでは無かった。
未だ、身体は許していない雰囲気ではあったけれど、どの道長くは無いという危機的状況にあったと思われる。

とし子は花岡の彼女になる事を望んでいた。
彼女と一緒に帰る時、電車の中では普通の距離で話しているのに、彼女の下りる駅から乗り継ぎの駅までの
街中は並んで歩く事を極端に嫌った。
いつも、5メートル位先を彼女は小走りで帰る。
要するに、僕と歩いている処を彼氏に見られる事を警戒していた。

多摩川の土手に行った日、それは特別な寄り路であり、普段はまっすぐに乗り継ぎ駅に向かっていた。
その日は多分、会社で飲み会があった日、酔いを覚まして帰ろうという誘いに彼女は初めて応じた。
いつも送って貰っているのだから、その位は付き合わないと悪いとでも思ったからに違いない。

乗り継ぎ駅から土手は直ぐ傍、駅前の明りの中では相変わらず距離を取って、彼女はサッサと前を歩いた。
追いつこうと足を早めると、直ぐに彼女は又逃げ出した。
然し、明りが無くなり、暗闇が多くなると彼女は追いつく事を許し、並んで歩いても嫌がら無かった。
そんな彼女を見て、面白い事をする子だな!と思った。

多摩川の土手でのキス、恐らく彼女はその直前までそんな事をされるとは思っていなかったに違いない。
思っていれば、そんな危険な暗闇の土手なんかに行く筈が無い。
最後の最後迄した頑強な抵抗、それはそれで立派だったけれど、僕のものにするという予定を変える訳には行かなかった。
力及ばず、抵抗空しく唇を奪われてしまったとし子は、土手からの帰り、腰を抱きながら歩く事を許した。
其れまでのとし子からは考えらえない事だった。

このまま明りの中迄進めるのか?
今までの距離を寄せ付けない歩行は何処へ行ったのだろう?
かなり回りが明るくなった。
もう少しで駅に着く、その直前で彼女は突然の様に小走りに走った。
あらら、やっぱり・・という感じだった。
未だ、花岡の存在が彼女にはあったのだろう。

然し、彼女は改札を抜けた処で僕を振り返った。
それは今までに無かった事、いつもは改札を抜けると、見送る僕を無視してそのまま走ってホーに向かっていたのに。

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Author:ひろあき
振られる度に、もう恋なんかと何度思ったことか。相手にされないのも寂しいけれど、引寄せられてからストンと捨てられるのはもっと痛い。振られる度に臆病になって、此れは恋では無かったのだと慰める。傷つかない偽りの恋しか出来なくなっても恋は恋、小さくても偽物でも恋は至福です。

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