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四万十川の人


四国の四万十川に遊びに行った時の事。

四万十川と言うのは時々テレビでも紹介される景勝地で、「日本最後の清流」等と言われている日本三大清流の一つらしい。
他の二つは柿田川と長良川なのだそうだが、そうなると、清流の意味が一寸解らなくなる。
四万十川は名水百選、日本の秘境100選にも選ばれているから、綺麗な水には違いないのだろうけれど、
梓川とか高瀬川とかと云った源流を見慣れている物にとっては、ついつい本当? なんて疑ってしまう。

それはともかくとして、折角高知まで来たのだからと先輩と一緒に見学に行った。
この川は200キロ位あるらしい。
日本最長の信濃川とか利根川は300キロ以上あるから、必ずしも長いとは言えないのだろうけれど、
それでも200キロもあれば十分長いという気はする。
行ったのは多分結構下流に近い処だとは思うが、川底はまるで見えないし、苔で結構濁っていた。
上流の方は済んでいるのかも知れないが、どう見ても清流というイメージには繋がらなかった。

只、滅茶苦茶長閑で、気持はよかった。
支流も含めて47あると言われる沈下橋の下を観光屋形船で幾つかくぐった。
高知県では生活文化遺産として保存する事になったらしいが、なるほど生活文化という匂いはした。

で、その晩、先輩と町に出かけた。
中村という町で、テレビのサスペンスにも出た事がある町だが、全く何も無い町だった。
四万十川も何もなかったけれど、街にも何もない。
幾ら景勝地だと言っても一応は観光地、其れなりには何か面白い物があるだろうと思っていたのだが、
まるで何もないのには驚いた。

で、まあ、仕方なくと言う事でポツンとあったスナックに行った。
毛気度な時間なのに客は誰もいなかった。
ままとホステス嬢の二人だけ、で、ま、一見の客なのだけれど貸し切り状態に・・。

で、まあ、ママはともかく、そのホステスさんには驚いた。
最初から最後まで一言も口を利かない!
新人さん?
そなのかも知れないが、それにしても静か。
水割りも辛うじて最初の一杯を作ってくれただけ、後は客が勝手に作るという感じ。
お店のシステム?
そうなのかも知れないけれど、何しろ話題は客が作って、ホステスさんを楽しませるしかないという感じ。

幸、先輩はスナックでホステス相手にお喋りするのが得意・・、と言うよりお喋り大好き人間。
普段なら五月蠅過ぎるのだけれど、その寡黙なホステスさんには流石の先輩もタジタジ気味。
相手が喋らなければ喋らない程饒舌になる先輩が、普通の客と同じレベルに鎮圧されてしまったのは初めてだった。

先輩は、ホステス相手にお喋りするのは得意だけれど、口説くのは苦手、だから何時も其れは僕の仕事。
だけど、話上手な先輩に何処の店でもホステスの関心が寄ってしまうので、先輩と言って交渉するのは結構難しい。
然し、かの寡黙なホステス嬢、その先輩の得意な話術にも全然反応しない。
どちらかと言うと、そう言うホステスさんの方が交渉し易いのだが、完璧に暖簾に腕押し。
全くの無反応、上手に受け流しているのでは無く、さりとて無視しているのでもなく、まったく掴みどころが無かった。

スナックには結構行ったし、口説き係も何度か務めたけれど、殆どホステスさんを覚えていない。
なのに、高知は中村で出合ったホステスさんの事は、生涯忘れられない、 そんな強烈な印象の人だった。

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振られる度に、もう恋なんかと何度思ったことか。相手にされないのも寂しいけれど、引寄せられてからストンと捨てられるのはもっと痛い。振られる度に臆病になって、此れは恋では無かったのだと慰める。傷つかない偽りの恋しか出来なくなっても恋は恋、小さくても偽物でも恋は至福です。

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