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悪魔の腸 ⑩密会の様式

山田さんの奥さんの思い出は沢山ある様な、あまり無い様な、一寸不思議な感じがするのは、付き合いが
長い様な短い様な不、沢山あった様な無かった様な、実に妙なな形態だったからだろう。

人の奥さんと逢うのは中々難しい。
特にご主人が週末が休みでライフサイクルが同じだから週末に奥さん呼び出す訳にはいかない。
かと言って平日の夜も空けられないし、昼間はコッチが仕事だし・・という事で日常的には殆ど会った事は
少なかったので電話で何度もデイトなんかしていた。

ご主人がゴルフに行っている間を盗んでといった、せかせかしたデイトも必要に応じてあった気がするけど、
あまり記憶には無いから、あってもそう何度もは無かったに違いない。
奥さんとのデイトの記憶の殆どは登山用語でいうところの極地方式、拠点を一か所に置いてそこからアチコチ
出かけたという感じ、週末の日帰り登山では合宿登山という感じだった。

合宿と言うのは奥さんにとっては非常に都合がいいけれど、こっちとしては必ずしも良い訳ではない。
山田さんのご主人が出張している間、僕も出張だという設定が女房子供に出来れば問題無いが、そう上手くいかない。
然し、ある一定期間に一定の場所に行けば奥さんに間違いなく会えるという意味では好都合だった。
当時、山田さんのご主人は年に何回か一週間前後の海外出張があると言っていた。
そういう機会は当にデイトの絶好のチャンス、其れを利用しない手は無いし、無いから利用させて貰った。

だから沢山会った気もするし、余り会わなかった気もする。

山田さんの奥さんと会うのは全て密会、公式の場では元々共通点が無いから会う事はアリエナイが、本来的に
人目を避ける関係なのだから密会は当然なのだけれど、デイト場所も難しい。
基本的には出来るだけ人がいない場所が望ましいけれど、逆に言うとそう言う処では反って目立つし誰かに、
見られたら言い逃れが出来ない。
人が集まる処は紛れやすいけれど、反面知人に出合う確率も当然高くなる・・という事で人の奥さんと
会うというのは本当に”中々”難しい。

会う機会も無く会う場所も無い・・という現実感は、結果として会う事から遠のかせる・・といった事もあるけれど、
元々互いに別れを前提とした付き合いだと承知していたから、別れを恐れる事への精神面での負担はあまり無かった。
奥さんとのデイトは一回一回が別れ、別れては又会ったし、会えばまた其れが別れになるという繰り返し。
別れる時は”さようなら”も言わない別れ、互いに”此れが最後の別れ”と言葉では言わなくても感じていた。
一方では、若しかしたらまた会う事になるかも知れないという感覚も持っていた気もするが、別れの都度基本的には
”また会いたい”という未練は互いに残して無かった気がする。

奥さんとの関係は一言で言えばセフレ感覚、其れが一番近いかも知れない。
セフレと位置付けるには一寸違う!という部分も沢山感じるけれど、未練を残さず別れられるという処は
まさにセフレ、セフレよりはもっと多面的な情を交換したと思うけれど、他に適当な位置付けが無い。
マクロ的に言えば不倫関係なのだろうし、不倫である事は客観的な事実。
主観的にも不倫を認める部分もあるけれど、不倫関係とかセフレとかで括ってしまうと何とも味気ない。

デイトの終わりは極めてあっさりした別れ、そこだけ見るとセフレだけどデイトの始まりは一寸した恋人感覚。
少なくとも付き合いの初めの頃はデイトの動的な仕掛けは此方側だったし、ドキドキしながら誘った。
中盤からどっちかと言えば奥さんの方の仕掛け、理由は単純、デイトの要件である”絶対的な時間”、其れを
創造したり管理するのは奥さんしか出来ないのだから必然の結果だった。

奥さんとの付き合いは期間としては断片的、だから記憶もとぎれとぎれなのだろうが、当然会っていない間の
記憶は無いから、記憶的には繋がって付き合っていたみたいに感じる。
実際はそんなには会っていないのに、長く付き合っていた様な感じがするのは一緒鬼に過ごした時間が
”生活時間”だったからだろう。
奥さんは”内縁の妻みたい”と言っていた事があるが、確かに昼夜を共にするとそう言う感じになる。
朝、会社に行く時、”行ってまいります””行ってらっしゃい”、会社から帰れば”只今””御帰りなさい”、
そう言う会話ってまるで夫婦、”内縁の妻みたい”と言う感じは確かに解る。
”偽装夫婦”、”同棲時代”、そんなままごと遊びを互いに楽しんでいた気もする。

”現実逃避”、”バーチャルな夫婦”、色々な言い方があるかも知れないけれど一週間、長い時で三週間、
二人だけで暮らすと、殆ど”夫婦生活バージョンⅡ”という感じ、短期間であっても夫婦と変わりない感じ。
嫌な事があったり、飽きたら帰ってしまえば其れで終わる、なにもいやな思いして我慢して付き合う必要が無い。
そう言う意味では二人の生活時間は”便利な夫婦生活”だったかも知れない。

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振られる度に、もう恋なんかと何度思ったことか。相手にされないのも寂しいけれど、引寄せられてからストンと捨てられるのはもっと痛い。振られる度に臆病になって、此れは恋では無かったのだと慰める。傷つかない偽りの恋しか出来なくなっても恋は恋、小さくても偽物でも恋は至福です。

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