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山小屋日記 「遭難」 (クロちゃん)

11月10日
出発。
昨夜もチャンスを何度も窺ったけどダメだった。
おかげで寝不足でフラフラするし、吐き気もする。
クロちゃんの方は快調だ。
あんな芳兵衛から逃げ出してスカッとしたという顔つきだ。

天気は晴れたり曇ったりで不安定だ。
おおむねガス曇りだけど、時々スカッ晴れる。
これはいいなと思うとすぐグレーの霧に隠れてしまう。
アルプスではままある事だが、風はそんなに強くない。

初冬穂高

ジャンダルムの雪稜、ロバの耳の岩稜、クロちゃんは実に快調。
それに比べ僕は絶不調、空の胃袋からゲーゲー吐きそう。
クロちゃんは僕の荷物も背負ってくれた。
クロちゃんは僕の為にステップをカットしてくれた。

ロバの耳の下りで彼は戻ってきて「悪いから確保してくれ」と言った。
僕たちはザイルを結んだ。

その下りでクロちゃんが滑った。ザイルがピーンと張った。
岳沢側が鋭く切れていた。
身体は止まったが岩に脚をぶつけたらしく歩けない。
ザイルをゆっくり流して、下のザッテルまでクロちゃんを下ろした。
暫く様子をみたが、痛むらしいのでビバークすることにした。
ザッテルは45度位の傾斜があってビバークに適してはいなかったけれど、他にいい場所は無い。

シュラフに入ったクロちゃんをザイルで固定して、僕もシュラウに入った。
僕の方は70度位の傾斜の岩棚で、如何にもズリ落ちそうだけど、ストッパーがあるのでなんとか横になっていられる。

11月11日
天候の回復を待って、クロちゃんが歩けそうだと言うので登り始める。
奥穂の下りで二度目の事故が起こった。
比較的緩斜面だったのでコンテニュアスで降りていた。
怪我は痛むのだろうけど其れまで普通に歩いていたクロちゃんが突然腰が砕けた様によろけた。
ヤバイ、涸れの脚は折れている、直感でそう思った。
滑落!
緩斜面のコンテニュアスコンテが裏目に出た、まさか、脚が折れているとは思っていなかった。
ワワテテザイルの輪にピッケルを突っ込んで斜面に突き刺し全体重を掛けた。
クロちゃんは滑落停止の姿勢に入ってピッケルで制動、ザイルが40m一杯に流れてクロちゃんは停止したけど、その瞬間スピッツエが氷をかいて僕のピッケルが飛ばされた。
全体重をピッケルにかけていたので、前につんのめって倒れ、そのまま滑落。
クロちゃんの傍を通過してワンバウンド、今度はクロちゃんに止めてもらった。
幸い80m近い滑落時間があったから止めてもらえたけど、距離が短かったら又クロちゃんを跳ね飛ばしていたかも知れない。

バウンドした時に岩に衝突したらしく、腰骨が痛かった。
40m先のクロちゃんのとこまで3回休んで到着。
落ちた分、既にコースから離れているのは承知だが、登り返すのも辛い。
すぐ下に穂高小屋の屋根が見えているし、このまま下りてもそんなに難しそうにも見えない。
打った腰はいたいけど、クロちゃんの方は折れていると思うから、クロちゃんが先に下りた。
今度はコンテではなくちゃんと確保した。
一見、どうにか下りれそうに見えたけど、クロちゃんは苦戦、ザイルが全然伸びない。
「ダアメ、ダメ、全然みえねえんだ!」と、悲痛な返事。

やっぱり、正規なルートはちゃんと一番楽な所に作ってあるものだ。
ほんの少し外れただけで、手がかり足がかりが無くなってしまう様だ。
痛みが止まるまでは足場に踏ん張る力が出ない。
小屋を目の前にして悔しいけれど、再びビバーク。
昨日みたいな急傾斜ではないので楽だけど、凸凹は多くて背中に当たる。
クロちゃんとの距離は8メートル位、二人が一緒になれる場所はない。
昨日同様クロちゃんのザイルを固定してシュラフへ入る。
シュラフのファスナーが壊れて閉まらない。
クロちゃんに言ったら「俺のもだ!」と言う。
一寸、辛いビバークになりそうだ。

11月12日
咽喉が渇いた。乾いた雪を口に入れる。
微かに数滴ほどの水にしかならない。
昨夜、クロちゃんが「何か、食うものくれ!」と言ってやってきた。
ザックを開ける気力も無かったけど、何か持っていっただろうか。
クロちゃんは山のベテランだ。
何か食わないと凍死することを知っている。
僕なんかはその点ダメだ。
食う元気も無いし腹も減らない。
芳兵衛とのトラブル?が無ければ、しっかり食いだめして来たのに・・。
食料は未だ半分はあるけど、水が無い。

天気はよくないけど、動けないほど悪くは無い。
それに小屋は目の下、僅か数十メートル位にしか見えない。
「やあ、そろそろ行こうや!」とクロちゃんに声をかけた。
「凍傷にかかった為、動けねえ!」
悲壮な返事だった。
事態は最悪だ。
なんとしても涸沢迄降りなければならない。
今日なら朋文堂に長谷さんが来ている筈だ。
2.3日したらヒュッテの人も誰も居なくなってしまう。

起きた。アイゼンを着ける。
「ギャー!」激痛が走る。
別に腰骨全体がやられている訳では無いと思うけど、それにしては大袈裟に痛む。
「朋文堂に行く!」とクロちゃんに言った。
シュラフの中でくろちゃんが何かもぐもぐ言っているけど聞こえなかった。
「出来るだけ、やってみるよ!」と言ったら
「頼む」と帰ってきた。
食料は全部残した。

立っては歩けなかった。四つん這いになって降りた。
白出のコルまで行けば何とかなる。
コルまで行ければ自重で転がり落ちてでもヒュッテまで行く自信はある。
難所はコルまでだ。ここで転んで転落したら僕もクロちゃんも一巻の終わりだ。
クロちゃんの命まで背負っているのだから、死んでも降りなければならない。

何とか下りた。
たった三十分だったのに、その距離が下りられなかった。
冬季小屋に行った。
誰かいてくれたらとも思ったが居なかった。
米と薪はあったが電話が無かった。
咽喉がカラカラだ。薪をくべて氷を探した。
雪はあっても氷は無い。
ようやく氷を見つけた。一寸衛生に悪そうな氷だけど、そんな事は言ってられない。
コップに二杯ほどの水がとれたけど、一気にのんでしまった。
睡魔が襲ってきた。
ヤバイ、こんなところで眠ってしまったら大変だ。
睡魔はうとうとと来るものと思っていたが、そうではない。
突然にガンと来る。
全くの予告ナシに頭からぐらっと来る。
ヤバイ、っと思うと一瞬目が覚めるのだけど、暫くすると又、ぐらっとくる。
まるで眠っている間に頭をバットで叩かれるみたいに、何が何だか分からない内に突然に来る。
予想外の出来事に吃驚した。

たった三十分で下りたのだから、クロちゃんを一人で下ろせるのではないかと何度も考えた。
下りて救助を求めるか、登って救助に向かうか、何度も迷った。
クロちゃんは自力では立てないだろう。
立てるなら下りた筈だ。
一人ででもろくに立てないで這って下りたのだからクロちゃんを背負って下りるのはやはり無理だと思った。

靴とアイゼンと靴下を点検した。
手袋は凍っているけど靴下は湿っている程度だ。
突然「こんにちわ!」と声がした。
吃驚した。
登山者が登って来た。
東京理科大のパーテイだった。
助かった!!

彼らにクロちゃんの救出を依頼した。
彼らはすぐに登ってくれた。
11:40だった。

14:30分、クロちゃんは彼らに搬送されて小屋に着いた。
僕らは彼らに世話になりながら朝まで眠った。

11月13日、快晴
理科大の人達は救援を求める為に下って行った。
彼らにヒュッテと上の小屋へとクラブへの連絡を依頼した。

夜、23:00頃、上の小屋の芳兵衛とシゲちゃんと水野君が登って来てくれた。

11月14日、雪
ヒュッテの人達が橇を持って伸二が来てくれた。
伸二は初めて穂高に上ったとのことで、興奮してはしゃいでいた。

11月15日、快晴
もうすぐ、クラブの人達が上がってくる。
そうしたら、人数的には大丈夫だ。
頑張れクロちゃん。
クロちゃんは元気だ。
動けない事以外は大丈夫だそうだけど、凍傷の程度が心配だ。
僕の凍傷は手の指先だけ、爪は落ちるかも知れないけどたいした事は無い。

パタパタという音がしてヘリコプターが飛んできた。
テレビニュースの取材かと思ったら着地、二人とも収容された。

銀色に光った涸沢の北尾根の岩峰が眩しかった。































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振られる度に、もう恋なんかと何度思ったことか。相手にされないのも寂しいけれど、引寄せられてからストンと捨てられるのはもっと痛い。振られる度に臆病になって、此れは恋では無かったのだと慰める。傷つかない偽りの恋しか出来なくなっても恋は恋、小さくても偽物でも恋は至福です。

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