失恋教室

小学校の級友関本郁子さんも初恋の人、何しろこの時代は初恋の人だらけ、誰が本当の初恋の人だか分らない。

色が白くて大人しくて美人で頭のいい人だったけど一方的な片思い、彼女の一寸ハスキーな声は今でもはっきり覚えている。
シャボン玉を見ているうちに弾けて消えていった恋にもならない恋。
弾けたシャボン玉を失恋というかどうかも疑問だけど自覚なき初恋の人の一人であった。

彼女自身は無口で大人しくて人前では全く目立たない人、男女的に言えば印象に強いタイプでは無いのだけれど、
其れが反って印象を強くさせ、童話で言えば白雪姫みたいなイメージの人だった。

何故インパクトが強かったのか？
当時家の周りには同級生の女の子が沢山住んでいた。
それこそ、ままごと友達、小学校に上がる前からその子達と遊んでいたけれど、彼女の家は歩いて十分位、子供の足なら十五分位だろうか。
その距離は絶対的に遠かったから「ままごと」も遊んだ事の無い女の子の発見が新鮮だった。

同じ同級生の肉屋の良子さん、立石の絵美子ちゃんも今までに知らないタイプでインパクトが強かったけれど、
郁子さんのインパクトはまるで地球の反対側の様な質の異なるインパクトだった。

郁子さんは副級長を勤めるほどの群を抜いて頭のいい子で、常に成績はクラスで一番か二番だった。
郁子さんの頭の良さに対しては嫉妬と羨望を同時に感じていた。
自分とは違う星球に住んでいる人という距離感が何とも刺激的だった。

青江美奈に似たセクシーボイスも刺激だった。
清楚で理知的な顔つき、肌の色の白さ、病的な程の弱弱しさ、でしゃばらない謙虚さ、育ちのいい品格、淑やかさ、優しさ、等々・・・。
後々僕に「憧れの女性像」を形成させる因子が郁子さんには沢山あった。

シャボン玉の僕の思いは屋根まで届かずに壊れて消えてしまった。
しかし、当時の現実はそんな淡い感覚では無かった。
郁子さんの好きな男は渋谷君と言って、成績はトップで当然級長、スポーツ万能で、おまけに体格もいいし男前だった。
そういう男には恋も勝てないのだというショックで心はズタズタに切り裂かれていた。

初恋の失恋は単に相手の女性の思い出では済まない酷く残酷で罪なものだ。