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同窓会⑯キャンドルナイト

其の日も奥さんは日中は何処かへ出かけていたらしいのだが、帰った時には家にいた。
帰る時間には何時もいてくれるのだけど、居なかった事もあるし、そうなると居るか居ないか帰るまで心配。
会社を出る時は平常を装って出るのだが、出た途端に走って帰る感じ、時にはタクシーで帰った事もある。
この感覚は恋に夢中になっている時に極めて似ているが、荘でなくても待っていてくれる人がいるというのは嬉しいものだ。

昔、中学生の頃、庭に傷を負って迷い込んで来た子犬がいて、その面倒を見ている内に学校から走って帰る様になった事がある。
子犬は縛った訳では無く、何時でも母親を探しに帰れる様にしていたのだけれど、帰ってしまったかどうか
心配で飛んで帰って、未だいるのを見つけて安心したり、見かけないと心配して庭中探しまわった。
その子犬を飼うと言う意識は無く、怪我が治ったら勝手に消えて行くだろうとは思っていたけれど、
治って居なくなるならそれは其れで嬉しいし、治っても帰らないで居てくれるなら其れも嬉しかった。
奥さんに対する情もそれに似ているのかも知れないが、兎に角会社から飛んで帰る感じの毎日だった。

その日はなんとなく部屋に温度を感じた。
冷たい鉄の扉の外側から感じるものでも無いと思うけれど、その日は確かに温かい温度を外から感じた気がした。
鍵を開けると中から音楽が聞こえた。
一人住まいの部屋から音楽、それは今までに一度もない事なので驚いた。
奥さんがいるのは分かっているから、驚いたと言っても何で音楽がという驚きなのだが、同時に部屋の明りが
いつもと違ったので、何だ何だ!と言う感じ。
マンションの室内灯は蛍光灯、明るいけれど冷たい明り、処がその夜は暗いけれど温かい明り、だから異様さに驚いた。

奥さんは直ぐに迎えに来て何時もの様に”御帰りなさい”と言ってくれたのだが、その服装にまた吃驚。
来ている物は殆ど毎晩見ている物、別に驚きには値しない筈なのだが、この時間に見たのは始めて。
蛍光灯の光で見るネグリジェとは全然違って、超ドレッシーで濃厚なセクシーさ、部屋にはキャンドルだけが
灯っていた。
ガラスのコップに蝋が入った蜀台がテーブルやキッチンや玄関等に点在して置かれて、香台に煙が立っていた。
テーブルにはワインとかシャンペンとかが置かれて、小さな花の山も、一体どうしたの?と言う感じ。

どうやら彼女にとっての何かの記念日らしい。
一寸した記念日とは言っていたけれど何の記念日かは教えてくれない。
女性は記念日が好き、昔、幸子に”今日は何の日高知っているか?”と聞かれて知らないで恥をかいた。
幸子の時がそうだったから、咄嗟に奥さんと初めて結ばれた日か?と思ったけれど、あれはもっと寒い頃、
炬燵があるかないか、その位の時期だった様な気がしたけれど、もっと温かくなってからだったのだろうか?
一寸した記念日を一緒に祝うというのだから僕に関係ある日に違いないと思ったけど、他に思い当たる事もない。
彼女の誕生日とかだったら、そう言うだろうし、僕の誕生日でも無い。
初めて結ばれた日だったら、覚えていないのは拙かったと思ったけれど、初めての日だったら”一寸した記念日”
とは言わない気もする。
初めての日と言うのはは彼女にしてみれば初めて夫以外の男に抱かれた日、”一寸した記念日”では無く、
彼女にとっては”大変な日”だったに違いないという気もする。

初めての日では無いとすると何か? 兎に角僕と関わりがある日なのだろうが、他には思い当たら無い。
そう成ると非情に都合が悪い。
何とか思い出してあげないとと焦ったけれど、遂に分からなかったし、彼女も何の記念日だか言わなかった。
彼女に申し訳ないと思いながらも、何の記念日か分からないままに”その記念の日に”と言って乾杯した。

キャンドルでのライティング、その怪しくも神秘的なムードは実に気持がよかった。
単身生活では絶対にあり得ない温かい雰囲気、二人で過ごしてこその温かさ、其れは生きている事の喜びにも近い
素晴らしい気分だった。
と同時に、彼女が女なのだという事を実感敵に感じた。
女ならではの感覚、女房には絶対にない女らしい感覚、それを感じた時に女房との結婚をつくづく失敗したと思ったし、山田さんは正解、正しい女選びをしたと羨ましく思ったし妬ましく思った。
タイミングさえ合えば、こんな人と結婚出来ていた!そう思うと悔しくて堪らなかった。

山田さんは何もかも僕より優れている。頭のいいし顔もいい、スタイルもいいし給料もいい。
スポーツも出来るし女性にも持てるし趣味もいいし品もいい。
怜人の奥さんもいるし彼女も居る。
負けているとすれば子供が居ない事くらいだったけれど、その子供にも恵まれた。
何より奥さんに愛されているというのが素晴らしい。

奥さんと付き合えば付き合う程、山田さんが羨ましくなり、同時に自分が悲しくなる。
だから、早く奥さんと別れたい、そうしないと、ひがみで死んでしまいたくなる、そう思う事がある。
男にとって、劣等感を感じさせられる事程キツいものは無い。

山田さんへの劣等感を一番感じさせてくれるのは奥さん、だけれど唯一の優越感を感じさせてくれるのも奥さん。
奥さんは両刃の剣でもあった。
キャンドルライトの明りに包まれた小さな直卓を挟んで奥さんと唇を重ねた。
奥さんは唯一の戦利品、この奥さんを失ったら残るのは敗北感だけ、そう思うと奥さんを放したくないと思った。

その夜、奥さんを愛した。
心から愛しんだ。
とても大事な宝物、絶対に失いたく無い宝物、そういう気持で愛した。
好きとか愛しているという情感とは違うと思う。
只、堪らなく愛しく思って心こめて、もう数日しか無いと分かっているのに本気で愛しんだ。

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Author:ひろあき
振られる度に、もう恋なんかと何度思ったことか。相手にされないのも寂しいけれど、引寄せられてからストンと捨てられるのはもっと痛い。振られる度に臆病になって、此れは恋では無かったのだと慰める。傷つかない偽りの恋しか出来なくなっても恋は恋、小さくても偽物でも恋は至福です。

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