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前穂高東壁 (京子)

10月7日
18:00 鎌田で京子と待ち合わせる。
天気はぱっとしないが、穂高はどうだろう。
今回は電車でなく、車で行く。
最初は寿一郎も参加の予定だったし、和子も行きたいと言っていたが、結局二人になった。

京子がピッケルを忘れたというので家まで取りに行く。
この季節、ピッケルはいらないと思うけど、万が一という事もある。
戸部の古川さんの「ジャヌー」に寄っ、小物を買って、僕の家に寄ってザックを詰め込んだ。

20:00出発、夜明け前に赤松に着いて仮眠。
眠くて眠くて、上高地まで行けなかった。

10月8日
8:00 上高地着、9:00上高地発。
夕べの雨は上がっていたが、穂高は霧だった。
11:00 徳沢に着いた。
見上げる穂高は新雪が着いている。昨日の雨で着いたのかも知れない。
ピッケルは要らないと踏んでいた僕はピッケルを持ってきていない。
小屋の芳兵衛に彼女のピッケルを借りた。

12:15 徳沢を出発、
新村橋は流水で岸の柱を残して姿を消していた。いつも穏やかな梓川なのに、こんな事もあるのか。
幸い今は渇水期、難なく河原を渡れた。又白谷を登って、又白の池に着いてテントを張る。
睡眠不足と空腹でフラフラした。
奥又白は三年ぶり、池の辺りは僕が穂高で一番好きな場所の一つだ。
晩飯の支度、京子から食料が少ない事を知らされ、がっくり来た。

山に女と来るには訳がある。
その一番の理由は料理と食料の豊富さだ。それが無いのなら女を連れてくる意味が半減する。
確かに京子は山女ではない。
山に行くといっても山小屋泊まり、だから、奥又白にも山小屋があるとでも思っていたのだろうか?

どこの山に行っても次から次へと魔法の様に食料が出てくる障子のザックを思い出した。
京子のザックにも当然食料が沢山入っているものと決め付けていたのは失敗だった。
又白池にも前穂高の山にも山小屋は無い。
したがって食料は無い。些か心細い。

女を連れて来る理由のもう一つは、欲しくなったらいつでも抱けるということ。
特に非常に厳しい岩をやった日は、かなり強い欲望が起こる。
山は厳しければ厳しい程興奮するし、興奮して感動して感激する。
ゆるい山ほど興奮しないし感動しないし感激しない。
だからアルピニスト達は昨日より今日、今日より明日と、常により高くより困難な山を求めて登る。
それがアルピニズムという物だ。
男だけでなく女も同じらしい。女も厳しい山に入る時は男と来たがる。
普通の尾根歩きしか経験の無い京子にはこういう気分は感じないことかも知れない。

今回の登攀が、厳しいものになるかどうかは、未知数だ。
厳しいものになるかどうかは分らないけど、なったら京子を抱くことになるかも知れない。
京子はまだ処女のままだから、京子が応じるかどうかも分らないけど、応じようが応じまいが、そういう
状態になったら、京子は抱かれるしかない。

反対に、京子が厳しい山を体験して、そういう状態になるかも知れない。
京子がそうなっても、僕が厳しい山を感じなければそういう事にはならない。
不合理、不公平、不平等な理屈だけど、其れが男と女の性なのだから仕方ない。
仮に京子の方がそういう風になっても、京子はそういう方法を知らないだろう。

10月9日、快晴
余りの寒さに寝袋から出たくないけど、我慢して起きてみたら物凄い快晴。
びっくりして眠気が吹っ飛んだ。
京子を叩き起こして、7:00右岩稜へ向かう。
古川ルート、昨日寄った横浜の古川さんが開拓したルートだ。
新雪の斜面を登る。緩斜面には雪が積もっているけど、二、三日晴れれば消えてしまう程度だ。
インゼルの左を詰めて右岩稜の基部でアンザイレン、登攀が開始された。
既に、3パーティが取り付いている。
毎度のことだが、僕は最初のパーティになったことが無い。
早起きが辛いから一番で取り付いたことが今までに一度も無い。
Dフェース


このルートで4ピッチ目が一番難しかった。一番やばかったのは雪がついていた8ピッチ目、6ピッチ目と
最後の11ピッチ目では京子にトップを体験させた。
古川ルートは初登ルート、二つの大きなハング帯で分断された壁の弱点をついて登る素晴らしいルートだった。
岩場が終わるとすぐに山頂というのも気持がいい。
山頂に着いたのは17:00、日が暮れて凍り始めたA沢を下ってテントに戻った。

10月10日、快晴
7:30 テントを出て四峰正面壁へ向かう。
取り付きテラスで信大山岳部員に声をかけられた。
「甲南ルートで墜死した部員の遺体を収容しているので、一寸待って欲しい」と言われた。
彼の話だと、甲南のハングを鐙で乗越中、ハーケンが抜け、ザイルも切れて墜死したらしい。
そういえば、昨日二義岩稜登攀中に四峰で大落石の音が聞こえたけど、あの時かも知れない。
そういう訳で、取り付きテラスに4パーティ、這松テラスにも2パーティが向かっていて第渋滞。

やがて、遺体が降ろされ、信大の人から声がかかり、登攀は開始された。
信大山岳部といえば、玉井さんとか瞳ちゃん(春代ちゃん)がいる所、遭難者はてっきり男と思い込んでいたので、
ご遺体の名前を聞きそびれたが、まさか彼女達では無いだろうな。
京子も初めての本格ルートで、初めておロクさんに遭遇したからショックだったかも知れない。

取付から易しいガリーが3ピッチ続いて這松テラスに達する。
ここは十人ほどの順番待ち。
第三ハング下までは問題なかったが、最後のハングで鐙に乗った瞬間、紐がプツンと切れて、体がぶる下がってしまった。
鐙は二台あるのでもう一台をハング上に掛けて、一段目から二段目に踏み変えた瞬間、今度は今度はプレートが
外れてまた、ガックンと落ちてしまった。

下で京子が「やめよう、やめよう」と言っている。
ここを過ぎれば、もう終了点は近い。
抜けてしまったほうが、俄然楽な事には違い無い。
鐙一台で、なんとか抜けようとした。
腕力が無くなって、一旦下のテラスに降りて、再挑戦。
しかし、どうにも超えられない。
下のパーティが鐙を貸してあげると申し出てくれた。
借りてハングを抜けるのが最善の方法なのは分っていたけど、このハングが一台で超えられない自分が情けない。
信大の人はこのハングでハーケンが抜けたのだろうか。
京子の「やめよう、やめよう」の声が頭から離れない。

下のパーテイに先を譲った。
彼らは鐙を残しましょうかと言ったけど、辞退した。
借りて登っても僕には満足は残らない。
それは敗北には違いないし、敗北以上に屈辱だったけど、既に戦意消滅している自分を感じていた。

このハング、パートナーが邦子や障子だったらどうだろう。
先ず、あっさりとトップを代っていただろう。
邦子は人工登攀が得意だから、鐙一台でも簡単に抜ける気がする。
障子だったら、バランスだけで乗り越えるかも知れない。
邦子や障子にだったら「テヘヘヘ・・」と笑って過ごせるし、「やったあ・・」と素直に喜べる気がする。
彼女達とは長い山の付き合いで互いの技量や精神を知りつくしている。
互いに相手を自分の五体の一部だと感じているし、信頼し合っている。
彼女達に誤魔化しは通用しないし、裸で付き合っても恥ずかしくない。
京子はそうは行かない。
いくら鷹取で人工の練習をさせたからと言って、このハングをトップで登るのは無理だ。
それに、トップで抜けられたら僕の立場が無い。
第一、京子は「やめよう、やめよう」と言っている。
既に恐怖感に負けている京子がトップをやる筈が無い。

這松テラスからクライムダウンで1ピッチ、アップザイレンで半ピッチ、そしてもう1ピッチを振り子で
トラバって中断スラブを横断、甲南ルートへエスケープ。
ザイルを巻いて取り付きテラスへ、そしてインゼルを下って本谷から正面壁を振り仰ぐ。
悔しさがこみ上げてきた。
前穂高東壁 (京子)

17:00 テントを撤去。
明日のDフェースへの戦意もないし、鐙も壊れたし、食料も切れたし、京子を抱く気も無い。
一日繰り上げて降りることにする。
下りの中畑新道は長かった。 振り返る前穂高が大きかった。
19:00 徳沢着。芳英衛にピッケルを返す。徳沢泊。
奥又白谷

10月11日
芳兵衛に別れを告げて下山。
上高地の駐車場で、靴を履き替えた。
靴を脱いだ時の開放感と運動靴の違和感が何時もより大きく感じた。

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振られる度に、もう恋なんかと何度思ったことか。相手にされないのも寂しいけれど、引寄せられてからストンと捨てられるのはもっと痛い。振られる度に臆病になって、此れは恋では無かったのだと慰める。傷つかない偽りの恋しか出来なくなっても恋は恋、小さくても偽物でも恋は至福です。

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